或る物書きの英語喉と小説まみれのジャズな日々

  英語喉とジャズと小説をこよなく愛し、映画・アニメ・漫画・R&B・70年代ロック・Suchmosなどに眼がない或る物書きが綴る

連載ブログ小説『宇江部雷太 』 第1話 亀虫商店 〜副業ライター物語〜

 

これから筆者のブログで始まるこの連載小説は、筆者MASAの実体験をベースにして、副業ライターとはどういうものかを描いていく物語だ。とはいえ「宇江部雷太」というキャラクター設定も彼を取り巻く環境も、筆者とは全く違う架空の人物なので悪しからず。(笑)

 

これを書こうと思い立ったのは、副業あるいはライター志望の人たちに向けて、一歩踏み出すための背中を押し、壁にぶつかった時の参考になるであろう事柄を、堅苦しい説教めいた指南書ではなく、小説として読みやすい形で発信しようと考えたからである。

 

ライターという副業を小説として楽しみながら追体験できるように、物語として面白おかしく、リアルに綴っていこうと考えている。

 

なお、連載は不定期になるだろうことを明言しておこう。また、不評であれば即消滅することも。(笑)

 

タイトル画像

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宇江部雷太 〜副業ライター物語〜

  

   第1話 亀虫商店


「おぇこら宇江部・・・っまえ、まだ社内でアブラ売っとんのか?ええか!おまえが売るのはアブラやのうてな・・・」

「広・告・枠!ですやろ?わかってますやん」へツラー総統のねちっこい嫌味に、食い気味でおれは答えた。

 

へツラー総統とは誰がつけたか忘れたが、この山寺営業部長の仇名だ。

 

眉が薄く髪は黄色味がかった茶髪なので、宇宙戦艦ヤマトに出てくるデスラー総統に一見似ている。本人も意識しているフシもあって、冬場にはマントっぽいAラインのロングコートを好んで着ていた。

 

しかし山寺の、部下への横柄な態度とは真逆の、専務や社長に対する媚びへつらう様は見苦しいのひと言に尽きる。

 

会社の同期の呑み会で、誰かが山寺部長への鬱憤を吐き出し始めると、二、三人がそれに続き、その内のひとりが言った。


「おれらにはクソミソに偉そうに言いやがるくせに、上には必死でへつらいやがって・・・あんなしょ〜もないヤツ、デスラー総統を気取ってるようやけどな、あれはヘツラーや。ヘツラー総統で充分や」

一同がどぉっと湧いた。

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それ以来、山寺がいない場所では同期は必ず彼を「ヘツラー総統」と呼ぶようになった。「ヘツラー」と呼び捨てではなく、皆「ヘツラー総統」もしくは「総統」と仰々しく呼ぶ。

その方が小馬鹿にしている感が滲んで面白いからだ。それぐらい不平不満を、皆が持っていた。

 

ともあれ、ヘツラー総統がうるさいので、おれは身支度をしてホワイトボードの自分の名前「宇江部」の欄に「市内枠取り飛び込み」と書いてさっさと部屋を出た。

 

廊下で同期の岩井とすれ違った。

「お、雷太やんけ。お出かけでっか?」

いつも上機嫌な岩井は、やや小柄ではあるが休日の素人サッカー三昧で日焼けした精悍な男だ。にこやかな面差しをおれに向けて訊ねてきた。

 

「ああ、ヘツラー総統がやかましいんでな」

「総統、今日えらく機嫌が悪いな。どうせ朝から奥さんにチクリと小言を言われたんやろ」

「え?尻にひかれてんのか、アイツ?」

「ああ、あそこはカカア天下やっちゅうんは、女子社員の中ではもっぱらの噂らしいで」

岩井はここだけの話という感じで、人差し指を立てて自分の唇に持っていき、茶目っ気たっぷりにウインクした。

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岩井は社内きっての若くて美しい、しかもモデルのように長身な女子社員、加野ののか(ひっくり返して読んでも『かのののか』だ・・・親は何を狙ってそう名づけたのか、不思議だ)と結婚を前提に交際していることもあり、さまざまな社内の裏情報を女子ネットワークから得ているようだ。

 

おれは駐車場に向かった。ただし、営業車は先輩たちが使って出払っているので、ちゃりんこ営業のための自転車を取りにだ。どうだ、広告代理店なのに結構アナログだろう?そんなもんだ、中小企業だからな。

 

市内のメインストリート眼堂筋を西に三本入った通りで「亀虫商店」と看板が揚がっている自転車店を目にした。もう10月というのに昼間はまるで真夏のように暑いせいか、ドアは開放されていて中は丸見えだった。

 

外から様子を見てみると、年の頃は二十代半ばのアゴ髭を生やした長髪の青年が、なにやら自転車を真剣な面持ちで整備しているようだった。

 

おれは乗って来た自転車を道路の、その店と反対側の脇に止めて、アタッシュケースだけを持って店に入って行った。

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「お邪魔します!店主さんですか?」

青年がちらっと顔だけ向けて、また視線を整備中の自転車に戻して言った。

「いらっしゃい。はい、ボクが店主ですが・・・故障ですかぁ?」

「い、いや違うんですよ。わたし広告代理店のもんです」

整備を続けながら「はぁ・・・」と生返事を返す若い店主の近くに寄って、おれは名刺を差し出しながら告げた。

 

「アド・デンガナ株式会社の営業で、う・え・ぶと申します」

店主は整備の手を止めて、油で汚れた両手をエプロンで拭ってから名刺を受け取った。

 

「宇江部・・・雷太・・・珍しいお名前ですね?」店主の顔が初めてほころんだ。

「そうですねん!お前はウェブライターかって、1日5.3回突っ込まれるんですわぁ」

「ぁははっはは、なんすかその中途半端な数!」

「ええ、平均とったらそうなるんです」

おれがニヤリと笑うと人懐っこい笑顔をおれに投げ返しながら、店主は続けた。

「ところで、その広告代理店さんが何の用事ですやろ?」

「ええ、実はですね、毎朝新聞の明後日の夕刊のですね、広告枠にちょっと穴が開いてしもたもので・・・もしよかったら格安で広告を出しはりませんかっちゅう話です」

「うちが広告?」

「ええ、ここは場所もええし、ちょっと新聞で名前広めたらさらに繁盛しまっせ!」

ここぞとばかりにおれは営業モードに入った。

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「う〜〜ん・・・そない宣伝したら・・・忙しなりますやん?」

「え?い・・・そ・・・がしなったら・・・・ええことちゃいますん?」

「いやぁ、ぼちぼちの忙しさでええんすわ」

 

珍しい商売人だなとおれは思った。確かに自転車店の店主というのは往々にして職人気質の人が多く、商売っ気はどちらかと言えば淡白な傾向にある。それにしてもちょっと淡白すぎないか?

 

「忙しゅうなったらええことですやん!?」

おれが畳みかけると、店主はなぜか照れ臭そうに言った。

「いや、ええことなんやけど・・・他にもやりたいことがありますねん」

「他に?」

「ええ・・・そっちも面白いんすわ」

「ほぉ・・・・」

おれは正直な店主に好感を持った。普段から飛び込みの営業は、もっと露骨に、邪険にあしらわれることが多いのだ。

 

「もしよかったら、何をされてるか教えてもらってもええですか?いやいや、深い意味はおません。ちょっと興味があるので、もしよければ・・・」

「ぜ〜んぜん言いますよ」

屈託のない顔で店主はおれの顔に向き合って言った。

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「奇遇やけど、あなたのお名前と縁がありますねん」

「え?わたしの名前と?」

「ええ・・・さっきゆうてはったウェブライターかって話です。ボクね、先月からWebライターを始めたんすわ。クラウドソーシングっちゅうのを使ってね」

「クラウドソーシング?ああ・・・あの、ネットで仕事の発注者と受注者をつなぐアレですね?」

「そうそう、それです。ほんでね、結構・・・書く仕事がね、い〜っぱいあるんすわ」

「へぇ」

「それがね、やり出すとね・・・面白くておもしろくってね!」

 

おれは不思議だった。Webライターという仕事の存在はもちろん知っていたが、要するに企業からお題を与えられて記事を執筆する、言わば執筆代行業みたいなものと認識していた。

それの何が面白いのだろう?

 

おれ自身、書くことは嫌いではない。雑記ブログも書いているぐらいだ。

でもそれは自分の書きたいことだけ書いているので、人にこれを書けと言われて書くのとは随分違うと思う。

 

でも、店主はほんとうにその言葉を愉快そうに言っていた。おれは突っ込んで訊きたくなった。

「ひとつ教えてください。なんでWebライターがそんなに面白いんです?」
  

アゴ髭の若い店主は、意外にも真摯な眼差しをおれに向けて、語り始めた。

「いい質問です。これはね、ボクもやって初めてわかったことです」

 

おれは襟を正す気持ちで、店主を見つめ返し、彼の言葉に耳を傾ける。

 

「依頼された記事を書くってことはね・・・・」

 

店主の眼の奥に青白い炎が一瞬煌めいた気がして、おれは生唾をゴクリと飲み込んで次の言葉を待った。

 

 

第2話に続く