ジョン・レノン40回目の忌日に寄せて ジョン最後の日を描く〜1980年12月8日〜

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 Contents

 

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オリジナル短編小説「手向けの歌」

 

アニーのフォトセッション

 

「ジョン・・・今日のあなたはまるでハンブルク時代に戻ったようね!」

ファインダーから覗き見たジョンの凛々しい姿に、アニー・リーボヴィッツは一旦顔を上げ、ため息を漏らしながらそう言った。

 

「そうかい、アニー」

ジョンは嬉しそうに、彼女に言葉を返した。隣に寄り添って佇むヨーコも、頷きながら柔和な笑みでアニーを見る。

 

アニーはローリング・ストーンズのツアーを活写し、一躍有名になったローリング・ストーン誌のチーフ・カメラマンだ。

 

彼女の言う通り、その日のジョンは少し短くした髪をグリースでリーゼントっぽく撫で付け、撮影前に眼鏡も外していたので大いに若々しかった。

 

アニーは今日、アシスタントたちを連れてジョン・レノン夫妻の写真を撮りに、彼らが住むニューヨークのアパートメント、高級集合住宅であるダコタ・ハウスを訪れたのだった。

 

午前中に始まったフォトセッションは、アニーが充分なカット数を撮り終えて滞りなく終わった。彼女はジョン・レノン夫妻にお礼を言い、和やかに握手を交わし合ってダコタ・ハウスを後にした。

 

フリーウェイを快適にクルーズするステーションワゴンの心地よい振動に身を任せながら、今日眼にした優しさと色気が並存したジョンの姿を思い返すと、良い写真が撮れたという満足感がアニーを包んだ。

 

その数時間後に起こる凄惨な悲劇を、この時一体誰が予想し得たであろうか。

 

 

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ウォーキング・オン・シン・アイス

 

アニーとのフォト・セッションを終えてから、ジョンとヨーコはゆったりと食事をし、しばらく寛いだ。

 

午後5時になると二人はレコーディング・スタジオ「ザ・ヒット・ファクトリー」へリムジンで向かった。ヨーコの新曲である「ウォーキング・オン・シン・アイス」のミックスダウン作業のためだ。

 

ウォーキング・オン・シン・アイス・・・薄氷の上を歩く、まさにそのタイトルのように、終焉へと一歩ずつ近づいてゆきながら時が過ぎていった。

 

ミックスダウンの作業の最中、あらかじめアポイントを取っていたラジオの記者がスタジオにやってきた。

番組用のインタビューのためである。

 

記者はジョンの新作や近況だけでなく、ビートルズの前身であるクオリーメンのことなども聞いた。ポールやジョージとの出会いについて、ジョンは丁寧に語った。

 

一通りの質問に答えた頃、ジョンは真顔で問わず語りに忽然と言った。

 

「私はヨーコよりも・・・先に死にたいと思っているんだよ・・・」

 

つまりヨーコの死はジョンにとって耐えられないことなのだろう。

ヨーコよりも先に死にたいというその願いが、ほどなく思い掛けない形で叶えられることになるとは、夢にも思わなかっただろう。

 

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I'm shot!

 

スタジオ作業を終えたジョンとヨーコは再びリムジンに乗り込み、ダコタ・ハウスへの帰路に就いた。二人を乗せたリムジンは午後10時50分頃、ダコタ・ハウスの自宅の前に到着した。

 

二人が車から降りた直後のことだ。

 

誰もいないと思っていた暗がりに男がひとりいて、ジョンに声を掛けてきた。

 

「ミスター・ジョン・レノン?」

 

ジョンは意表を突かれて動きを止めた。

 

その刹那、銃声が上がった。

1発、2発、3発・・・合計5発の弾丸がその男の拳銃から放たれた。

 

「I'm shot!」

 

ジョンは叫んだ。

ヨーコはあまりの事態に声も出ない。

 

「I'm, I'm shot......」

 

二回目の叫びを上げながら 、ジョンはアパートのエントランスに自力で進もうとしたが、崩折れた。

それを見てヨーコは両手で顔を覆い、喉も裂けよとばかりに絶叫した。

 

ほどなく、銃声を聞きつけたダコタ・ハウスの警備員が駆けつけた。

血まみれのジョン・レノンを見て仰天し、傍に立つ蒼ざめた顔のヨーコの方を見た。

 

「男が・・・あの男が暗がりから突然ジョンを拳銃で・・・」

 

ヨーコは動転しながらも男を指差した。警備員は驚きヨーコが指差した方を振り向くと、小太りの男が無表情で立っていた。だらんとした右手には拳銃、なぜか左手にはLPレコードが握られていた。

警備員は拳銃めがけて蹴りつけた。そのキックによって拳銃が弾き飛ばされても小太りの男は無表情だった。

 

警備員は拳銃を確保し、急いで電話に向かい警察に通報した。

 

数分後、セントラル・パークの警察署からパトロールカーで急行した警官隊が到着した時、ジョンの意識はまだかすかにあった。

 

警官たちはジョンの姿をひと目見て、一刻を争う極めて危険な状態であると判断し、警官二人がかりでジョンをパトロールカーの後部に乗せて、近くにあるルーズヴェルト病院に急いだ。

 

一方、警備員の案内で銃撃現場の方に行った警官数名は不審な小太りの男が立って本を読んでいるのを見た。

警備員はその男を指差し、警官たちに言った。」

「あいつが射撃犯です!」

 

警官のひとりが男に声を掛けた。

「おまえ・・・何をしているんだ?」

感情のない声は返ってきた。

「本を読んでいたんです、『ライ麦畑でつかまえて』を」

彼の足元にはジョン・レノンのアルバム『ダブル・ファンタジー』が落ちていた。

警官は思い問い詰めた。

「おまえが撃ったのだな?」

無表情な顔を警官に向けて彼は淡々と言った。

「ええ、僕がジョン・レノンを撃ちました」

 

平然と言う男に呆気に取られつつも、警官は言った。

「お、おまえは・・・自分が何をしでかしたか分かっているのか?」

「すまない。君たちの友人だったとは知らなかったんだ」

 

意味不明の発言をする男を、警官は緊急逮捕した。

 

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オール・マイ・ラヴィング

 

ルーズヴェルト病院に向かう車中で、警官はジョンの意識を保たせようと懸命に呼びかけた。

 

「ミスター・ジョン・レノン・・・今病院に向かっています。気を確かに・・・」

 

声にならない掠れた声でジョンは言った。

 

「私は・・・ジョン・・・ジョン・・・レノンだ・・・背中が・・・背中が・・・痛いんだ・・・背中が・・・痛い・・・」

 

その声は次第に弱くなっていった。

 

病院に到着すると、医師はジョンに懸命に心臓マッサージをし、同時進行で助手たちが輸血を施した。

 

彼らの必死の努力も虚しく、暴漢に発射された5発のうち4発の弾丸を体に受けたジョン・レノンは全身の80%の血液を失った結果として、午後11時を過ぎた頃に失血性ショックで四十年の人生に終止符を打ったことが確認された。

 

死亡確認をおこなった医師が、周囲を振り返ってジョンの逝去を告げると、水を打ったように静寂が広がり、それまでは喧騒で聞こえてこなかった病院のスピーカーから流れるバック・グラウンド・ミュージックが聴こえてきた。

 

「Close your eyes and I'll kiss you... Tomorrow I'll miss you......」

 

しわぶきひとつ無い空間に、ビートルズの「オール・マイ・ラヴィング」が・・・あたかもジョンの死を悼み、手向けられたかのように流れていた。

 

 

 

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