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勢いある肉声で始まるアルバム1曲目
ビートルズの「イット・ウォント・ビー・ロング」はデビュー後の第2弾のアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』の1曲目だ。
のっけから勢いはフルスロットルなのにやけにリラックス感があり、若いのに不思議なレイドバック感がある「これぞビートルズ・サウンド」とも言うべきロックンロールである。
ジョンの軽くシャウトするような「It won't be long yeah」の肉声から始まり、楽器とともにジョージとポールの「Yeah! Yeah! Yeah!」が追いかけるゾクゾクする展開だ。
アルバムの最初の音を肉声=生声から始めるのは、ビートルズ初期のアルバムの特徴であり、彼らを担当していた音楽プロデューサーであるジョージ・マーティンのこだわりであった。
最強にパワーがある楽器こそ「肉声」であるとの持論から、レコードに「針を落とした次の瞬間」に流れ出す音で、聴く者の心を鷲掴みにするぞという音楽戦略であった。
そのジョージ・マーティンのこだわりに関しては、以下のコラム詳しく書いてあるので参考まで。
※ 『ウィズ・ザ・ビートルズ』フルプレイリスト/1曲目が「イット・ウォント・ビー・ロング」
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ジョンに対抗したポールの言葉遊び
この 「イット・ウォント・ビー・ロング」の作者はクレジット上は「レノン/マッカートニー」だが実質的にはおおむねジョン・レノンが書いたようだ。しかしポールが歌詞のある部分を書いたことがはっきりしている。
いきなりサビから始まる曲なのだが、そのサビの「It won’t be long, yeah」の3回の繰り返しの後に「till I belong to you」と来るのだが、この部分だ。言葉遊びが光っている。
つまり、「it won't be long」の意味は「そう長くは掛からないさ」であり、「till I belong to you」の意味は「僕が君のものになるまで」だ。
be long (長くかかる)を否定して belong (所属する)の肯定を強調している。この二つは同じ「音」で「韻」を踏みつつ「意味」を変えている、よく考えられた言葉遊びである。
先にジョンが「プリーズ・プリーズ・ミー」でやってのけた言葉遊びに、ポールが対抗したのであった。
「please please me」は副詞の「どうぞ」に動詞の「喜ばせる」を組み合わせて「どうか僕を喜ばせてくれ」という言葉遊びは、非常に洒落ていて大受けしたことに良い意味で嫉妬していたのだろう。
※アメリカ・ツアーでの「プリーズ・プリーズ・ミー」LIVE映像
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早くも高い音楽技法を感覚で駆使していた
この曲のブリッジの部分「Since you left me, I'm so alone」から「You're coming home」の中で、コードの構成音のうち、実に二つの音が半音ずつ下がっていく。
これは「クリシェ」という技法で、和声(コード)の動きが少ない場合に、構成音を部分的に(主に半音ずつ)上下どちらかに移動してゆくことで、「静」の中に「動」を感じさせるテクニックだ。
「クリシェ」には3種類ある。
- ベース音のみが移動する「ベースライン・クリシェ」
- 和声の構成音のひとつを移動させる「メロディック・クリシェ」
- 和声の中で2音以上を移動させる「ハーモニック・クリシェ」
そしてこの曲では「ハーモニック・クリシェ」に相当するかなり高度な技を、理論というより感覚で使っているのだろう。恐るべしヤング・ビートルズである。
その上、ジョージとポールのコーラスが、クリシェに対応して半音ずつ下がっていくというアレンジも見事である。この「クリシェ」という技法は、後々「サムシング」や「ミッシェル」などでも巧みに使用されている。
「クリシェ」とは別の、高度な技法である「ペダル・ポイント」を使用した件は、こちらに詳しく書いてるので、よければ読んで頂きたい。
ライブでは一度も演奏しなかった理由?
この曲はジョン・レノンの発言によると、元々はシングル盤向けを意識して作られたようだ。しかし、ジョン曰く「それほどたいした曲でもなかったのでアルバムに収めた」と言うことだ。
余談だが、当時のレコード業界では、アメリカではアルバムからシングルカットをするが、イギリスではヒットシングルがその後のアルバムに添えられることはあっても、アルバムからのシングルカットは基本的になかった。
その事情を知ってこそ、前述のジョンの発言の意味がしっくりくる。
後期の「カム・トゥゲザー」と「サムシング」のカップリング・シングルがイギリスでのビートルズ初の、アルバムからのシングルカットなのである。
そうは言っても、曲の構成も楽器のアレンジもコーラスワークも凝っていて、フィーリングもイカしている。エンディングもかなりハイセンスな作りになっている。シングル盤として充分に通用する曲ではないだろうか。
ところが、この曲はステージでは一度も演奏された記録がない。口パクのPVのようなものはあるが、生演奏ではない。
理由は定かではないので想像するしかないが、筆者の個人的な見解を述べさせて頂く。それは彼らの、アレンジに対する基本姿勢から来るものではないだろうか、と考えているのだ。
つまり、彼らビートルズは「ライブで演れないようなアレンジはしない」という理念でレコードを制作してきた。少なくともライブ活動をやめてしまう中期まで、そうやってきた。
その中で、この曲はちょっと凝りすぎてしまって、ライブ向けではなかったのではないかと考えられる。アレンジを変えてシンプルにしてやればい・・・とはならないのが、ライブ・バンド上がりのビートルズなりの「矜持」だったのではないだろうか。
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