或る物書きの英語喉と小説まみれのジャズな日々

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劈頭からビートルズの生声で始まりロックンロールの新大陸を見せつけた初期アルバム群

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ビートルズ画像

 

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アルバム劈頭から斬新なロックンロール

 

デビューアルバム『プリース・プリーズ・ミー』の劈頭を飾る「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」は、ビートルズを初めて聴く多くの者の心を鷲掴みにしたのは間違いない。

 

何が洒落ているかって、いきなり若きポール・マッカートニーの弾むような生の声で「One, two, three. four!」でこの曲、というかアルバムの幕が開くのである。

 

まるで彼らがライブ活動の拠点にしていたライブ・ハウス「キャバーン・クラブ」でのステージの始まりのような演出である。

 

いや、むしろそそういう雰囲気を想起させるためのプロデューサー、ジョージ・マーティンの確信を持ったアイデアだったのだ。

 

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テイク1の演奏の頭にテイク9のカウントの掛け声

 

この曲は9回録音され、テイク1から9までの音源があった。

 

ジョージ・マーティンは編集作業の時に、迷った。最も演奏が良いのはテイク1だったが、カウントの掛け声に関しては悪くはないが他でもっと良いテイクがあった。テイク9のポールのカウントを取る声が非常に良かった。

 

最終的に、演奏のノリが最も良かったテイク1の頭に、最もポールの掛け声がエネルギッシュであったテイク9の「掛け声だけ」持ってきてつなぐ編集をした。

 

それは彼のある「こだわり」からだった。

 

彼はアルバムの最初の音は「生の声」が最も相応しいという持論を持っていた。それは彼の長いプロデュース経験を通して、なんだかんだ言っても楽器の音より人間の肉声の存在感が圧倒的に勝るということを熟知していたからこそだった。

 

事実、彼らのアルバムの1枚目から5枚目まで(例外として3枚目の出だしのギターコードを除いたとしたら)すべて生の声から始まっている。

 

『ウィズ・ザ・ビートルズ』の「イット・ウォント・ビー・ロング」 

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『ア・ハード・デイス・ナイト』の「ア・ハード・デイス・ナイト」

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『ビートルズ・フォー・セイル』の「ノー・リプライ」

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『ヘルプ!』の「ヘルプ!」


前述の3枚目の1曲目「ア・ハード・デイス・ナイト」のみギターコードがジャラーンと鳴らされてから生声が入るが、それ以外はすべて生声からのスタートと徹底している。

 

アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』の成功もあって、確信を深めたのであろう。

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従来のロックンロールと一線を画すコード進行

 

デビュー・アルバムの一曲目「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」はロックンロールであることは間違いないが、従来のロックンロールとはひと味もふた味も違う。

 

当時は大抵のロックンロールナンバーはブルース進行と呼ばれる12小節でワンコーラスの定型パターンのコード進行に乗せて作られているか、そのマイナーチェンジであった。

 

ブルース進行で、最もよく使われるAキーの場合なら以下のようになる。

 

A7/A7/A7/A7

D7/D7/A7/A7

E7/D7/A7/A7

 

この12小節である。全てのコードにセブンス(和声の短7度)がプラスされ、ブルースフィーリングを醸し出す。

 

そして「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」のコード進行を見てみよう。

原曲はEキーだが、比較のためにAキーに移調するとこうなる。

 

A7/A7/D7/A7

A7/A7/E7/E7

A7/A7/D7/F

A7/E7/A7/A7

 

この16小節だ。かなり独特のコード進行である。

 

通常のロックンロールとの大きな違いは「サビ」が入ることだ。この曲では「So how could I dance」からがサビになっている。

今では珍しくないが、当時の音楽シーンでは画期的であり、彼らのロックンロールの曲構成はユニークの一言に尽きる。

 

また、この曲の特に12小節目のFはかなりトリッキーだ。普通は使わないが、斬新な響きとなって功を奏している。

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高度な和声進行を感覚でやってのけたポール

 

筆者がかじったジャズ理論でこのコード進行の解釈を試みてみよう。

 

結論から言うと、少々専門的な言い方になり恐縮ではあるが、これはサブドミナント・マイナーの代用になる。

 

少し詳しく述べよう。

サブドミナント・マイナーとは、例えばCキーの曲で

C/F/G7/C

という普通の解決の仕方ではなく

C/F/Fm/C

というようにドミナントセブンス(この場合はG7)の場所で代わりにサブドミナント(この場合はF)のマイナーコードから解決する方法で、完全終始と不完全終始の狭間のような、洒落た響きの解決になる。

これ自体は日本のアーティストもよく使う進行だ。

 

そして、この例の場合に、FmではなくA♭を持ってきているのが「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」の例の部分だ。

 

解釈上はFmの平行調の関係にあるメジャーコードに当たるのがA♭であり、構成音が近く、サブドミナント・マイナーの役割を代用できる。

 

つまりジャズのインプロヴィゼーション(アドリブ)をおこなう場合において、サブドミナント・マイナーの代用となるメジャーコードを想定したフレーズを弾くことができる。

非常に洒落たコンテンポラリーな響きとなるが、これは少々高度なテクニックではある。

 

作曲したポールは、少なくとも当時はそのようなコード理論は知らなかったであろう。だから感覚的に、そのコードの響きが斬新でかっこいいと感じて使ったのだろう・・・自分の感覚を頼りに。

 

その曲を作った時点では、彼は18歳か19歳である。おそるべしポール・マッカートニーだ。

 

もちろんそれはほんの始まりであり、そのデビューアルバムを皮切りに、彼らビートルズは従来のロックンロールやポップスの常識をどんどん破壊して、斬新でクールな音楽を紡ぎ出し続けてゆくことになるのだ。

 

本稿の締めくくりに、当時のアメリカの大人気TVバラエティ番組「エド・サリヴァン・ショー」に初めて招かれた時に演奏した「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」の動画を掲載しておこう。若さと未来を感じさせる圧倒的な演奏だ。

 

あのビリー・ジョエルは、この日この番組を観て人生が完全に変わったと公言している。もしこれを観ていなかったら、音楽人としての自分はなかったと。

 

 

  

※『Please Please Me』フル・プレイリスト

筆者のビートルズKindle本

 

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