アルバム『アビイ・ロード』50周年記念エディションが発売されてUKチャートの1位を飾る快挙が世界を驚かせた今はなきモンスターバンド、ビートルズだが、そのアビイ・ロードの1曲目の『カム・トゥゲザー』は盗作騒動のエピソードを持つ曲だ。
半世紀を経てもいまだ色褪せない、クールで偉大なロックナンバーだが、騒動の中途半端で真実を伝えていない情報が散見されるのに筆者は大いに憤慨している。ここらで真実を確認し総括しよう。
Contents
- カムトゥゲザーの盗作騒動とは?
- サイケデリックの伝道師からの依頼
- ジョン・レノンのロックンロールへの覚醒
- 異色な歌詞を綴るチャックに着目したジョン
- カムトゥゲザーは当初はアップテンポのロックンロール
- チャックへのオマージュ感が災いを呼ぶ
- 後のジョンらによる逆提訴で完全に終決
- 2CDエディションで聴ける別バージョン
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カムトゥゲザーの盗作騒動とは?
『カム・トゥゲザー』の「盗作騒動」をここらできちんと総括しておきたい。
ネットで散見される「カム・トゥゲザーがチャックベリーのユー・キャント・キャッチ・ミーの盗作として訴えられ、ジョンのアルバムにチャックのカバー曲を入れることで和解した」というヤツだ。
これ、合っている部分もあるが文脈としては完全な間違いなのだ。いくつかの非常に重要な要素が抜けているので、正しい情報を知る者から見れば大きく歪んだ誤情報だ。なぜそう言い切れるかは、このコラムを最後まで読んで頂ければわかるはずである。
ネット上のどの記事も中途半端であり、間違った情報も含まれている。Wikipediaも表層的な情報のみで、肝心要の部分が抜けているのである。
ビートルズファンとして、これはいかんと思うので、筆者が知り得た限りの真実であると判断するに足る信憑性のある情報群をもとに、詳細と顛末を書くことにする。
ともあれ、惚れ惚れするほどクールなその楽曲を聴いてみよう。
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サイケデリックの伝道師からの依頼
もともとこの曲は、サイケデリック文化に深く関与していて「サイケデリックの伝道師」となどとも呼ばれた元ハーバード大学教授であるティモシー・リアリーがジョン・レノンに制作を依頼したものだ。
彼がカルフォルニア知事戦に出馬する際に、ヨーコ・オノも含めて親交のあるジョンに選挙のキャンペーンの応援歌として作って欲しいとの話であった。
なお、依頼するときにあらかじめリアリーから「 Come Together 」という言葉を使って作るようにも頼まれていたのである。
このティモシー・リアリーという人物はLSDによる人格変容を研究していたエキセントリックな学者だった。
晩年にはコンピュータ技術に携わる中で、それでもコンピューターをLSDに見立てて、コンピューターによって脳を再プログラミングするというようなことを提唱していた。
さすがジョンと親交が深い学者である。一筋縄ではいかない。
リアリーはジョンに応援歌まで作ってもらったものの、キャンペーン中に当時違憲とされたマリファナ所持で逮捕されたので、選挙からは離脱せざるを得なかった。
ともあれジョンは曲を書き、それは彼が敬愛していたチャック・ベリーへのオマージュ感の強い曲調となっていた。
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ジョン・レノンのロックンロールへの覚醒
ジョンがロックンロールに目覚めたのはエルヴィス・プレスリー1956年の大ヒットチューン『ハートブレイク・ホテル』だった。ジョンは「あれ以来世界が変わってしまった」と発言している。
次にジョンは黒人のロックンロールを初めて聞いて、言葉も出ないほど衝撃を受けた。リトル・リチャードの『ロング・トール・サリー』だ。ビートルズも初期にカバーしている。
2人への衝撃に継いでジョンを夢中にさせたのが、大御所チャック・ベリーだった。
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異色な歌詞を綴るチャックに着目したジョン
ジョンはチャックの音楽性以上に「詩人」としてリスペクトしていた。たしかに当時のラブソング全盛の音楽シーンのなかで、チャックが書く歌詞は、よくよく読めば時代を生きる民衆の光と闇をシニカルなユーモアで描いている感がある。
大ヒットチューン『スイート・リトル・シックスティーン』にしたところで、軽そうな曲に見えるが、よく読み込めば違った趣がある。
反抗期ど真ん中で口紅塗って、ハイヒールを履いて夜の街を闊歩するあばずれ少女も、朝になれば趣味を変えなきゃいけない・・・初々しい16歳と化して教室に戻っていかなきゃね・・・みたいな感じである。
乾いた表現の中に、上っ面ではない人間の本音を浮き彫りにしているように読むことができる。
そんなチャックを詩人として敬愛したジョンは彼を「ロックン・ロール史上最初の詩人」と言って讃えていた。チャックのシニカルで人間の本質に迫る「詩ごころ」は確かにジョンに継承されている。
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カムトゥゲザーは当初はアップテンポのロックンロール
そのチャックへのオマージュを乗せて作った曲『カム・トゥゲザー』を、ジョンはアビイ・ロードのアルバムに入れるためにメンバーに披露した。
聴き終わった後、さすがにポール・マッカートニーがチャックの『ユー・キャント・キャッチ・ミー』に似ていると指摘した。もちろんジョンはわかった上のことだ。オマージュなのだから。
歌詞に関しては『ユー・キャント・キャッチ・ミー』の一部のフレーズを確信犯的に使っているが、内容はまったく違っていて、解散寸前のビートルズの自らも含めた各人の状況を赤裸々に、シニカルに歌ったものだった。
そのシニカルに描くという点ではまさにチャック・ベリーに似ていると言えるのだが。
1コーラス目はジョージ、2コーラス目はポール、3コーラス目は自分、最後のコーラスはリンゴだ。歌詞をよく読めば、ジョンの眼鏡を通して見た彼らの状況が感じられるはずだ。
ともあれ、メロディーは実際にチャックの『ユー・キャント・キャッチ・ミー』によく似ている部分があった。しかもジョンがアコースティックギターの弾き語りで最初に皆に聞かせた時は、テンポも早かったので余計に似ていたのだ。
ジョンはそれでもこの曲をアルバムに入れたかったので、盗作呼ばわりされないように、チャックのものとはかけ離れた雰囲気にしなければいけないとな、と皆と相談した。
ポールの提案で、テンポをスローにして、じわりじわりと押し寄せていくような、鈍くて鋭い力強いものにしようということになり、ベース、ドラムス、ギターそれぞれがそのイメージでアレンジを練り上げていった。
最終的なアレンジはチャックのロックンロール然としたものとは全く違う、クールで乾いた雰囲気のある洒落たロックナンバーに仕上がった。バンドとしてのビートルズの真骨頂だ。
この曲はジョージ・ハリスンの「サムシング」とのカップリングで、両A面としてシングルカットされ、大ヒットした。
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チャックへのオマージュ感が災いを呼ぶ
ところがチャック・ベリーの曲の著作権を所有していた「ビッグ・セブン・ミュージック」の経営者であるモリス・レヴィという人物が「カムトゥゲザー」が「ユー・キャント・キャッチ・ミー」に似ていることに気付いた。ビートルズの解散後であった。
本来、チャックへのオマージュの曲であったが、レヴィはチャックの曲の盗作であるとして、ビートルズの曲に関与する「マクレーン・ミュージック」「ノーザン・ソングス」「アップル・レコード」の3社を提訴した。
チャック・ベリーが訴えたのではない。彼に著作権はなかったし、ジョンとは親交があり、ステージも共にした関係だった。
レヴィは訴えた上で、提訴取り下げの条件として、当時の70年代初期にジョンがアレンジャー、フィル・スペクターのプロデュースで収録中であったロックンロール・アルバムの独占販売権を認めるように強要した。
マフィアと関係を持っていたレヴィは、その威をカサにして因縁をつけたカタチである。日本の芸能人でも反社会勢力に因縁をつけられ、食い物にされ、資産を搾り取られるケースがあるが、万国共通の闇社会のやり方だ。
そしてジョンが製作中だった音源は、アルバム『ROOTS』として、レヴィが経営していた「アダムⅧリミテッド」から独占販売された。
どうだろうか・・・このアルバムジャケット?いかにも正当ではないものが持つ「いかがわしさ」が溢れている。
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後のジョンらによる逆提訴で完全に終決
しかしその後、ジョンと関係各社がレヴィを著作権の侵害と登録商標の無断使用で逆提訴して勝利した。
その結果、レコーディングもやり直した上でジョン・レノンの正規のアルバムとして世に出て、ヒットしたのがあの名アルバム『ロックン・ロール』である。これにてめでたく一件落着なのである。
完全に終決しているので、どうか中途半端な情報で「盗作疑惑」の話題にするのは、もうやめて欲しいものだ。
2CDエディションで聴ける別バージョン
ところで、今回発表されたアビイ・ロードの2CDエディションでは、2枚組みの片方は完成の少し前の荒削りテイクが正規版の曲順で収録されている。
このカムトゥゲザー Take5は、演奏は途中で終わっているが、ソリッドで迫力あるセッションとなっていて、ファンにはたまらない音源だ。YouTubeの公式チャンネルで視聴できるので紹介しておこう。
演奏が途中で終わって、最後にジョンはこう言っている。
I'm losing my cool...
冷静さを失っていくのさ・・・ということだが、なかなかの意味深な発言である。
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