或る物書きの英語喉と小説まみれのジャズな日々

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「永遠の0」お騒がせ百田尚樹が真摯に太平洋戦争に向き合った大傑作

  

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先日も「二度目」の引退宣言をした、良くも悪くもお騒がせ作家と言える百田尚樹だが、作品のクオリティは極めて高い。この、50代で小説家になった放送作家は非常にユニークで、日本一売れる小説家と讃えられる一方では、暴言、失言で度々ちまたの顰蹙を買っている。それでも、自由奔放な発言を辞めないあたりは彼の真骨頂か。

 

太平洋戦争を主題に優れたプロットで戦争文学の新境地を拓く

 

人物像が賛否両論あるのはともかくとして、彼が発表してきた作品群はいずれも読み応えがあり、実際に多くの読者を獲得しているのは事実だ。


「永遠の0」は2006年に発刊された本だ。

 

関西の人気テレビ番組「探偵ナイトスクープ」等を手掛けてきた放送作家の百田尚樹の小説家としてのデビュー作であり、異色なのは文庫化されてから2012年にミリオンセラーとなった本なのだ。

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そのまさにブレークスルー直前の頃、大阪梅田の紀伊國屋書店で「永遠の0」の文庫版発刊のキャンペーンをやっており、著者百田尚樹自身が作品に込めた思いを語った音声を、なかばエンドレステープのように流していた。

 

その頃は百田尚樹の名前も知らず、「えらいべたべたの大阪弁のおっさんやな・・・どんな小説書くんやろ?」ぐらいに思った。気にはなったが、買って読もうというほどの関心はなかったので、そういう時に筆者がよく使う方法で、図書館で予約をした。

 

人気本は各図書館が複数冊を所有するが、それでも貸し出しに出突っ張りですぐには借りれない。しかし、予約をしておけば確実に巡り会える。

 

期待もせずに予約した。

 

3ヶ月以上待たされて、忘れた頃に図書到着の連絡メールが入ったので借りに行き、早速読んだのだ。その時点では、そもそも「ゼロ」の意味さえも分かっていなかった。

 

そして、驚いた。

素晴らしい作品だった。凄い小説だった。 

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ゼロとはゼロ戦=零式艦上戦闘機のことだ。太平洋戦争で特攻で戦死したゼロ戦搭乗員を祖父に持つ姉弟が、ほとんど何も知らなかった祖父のことを、その祖父のことを知っているすでに高齢の元海軍兵達を訪ね歩きながら祖父のエピソードを集める。

 

日本人のメンタリティに深く切り込み、心が揺り動かされる場面が多く、ぐいぐいと引き込まれる。プロットが素晴らしいのと、それを一切人工的に感じさせないのは徹底した取材と思索によって裏打ちされているのだと思う。

 

クライマックスまで物語のテンションは重厚に上がり続ける。タイプは全然違うが髙村薫の「冷血」に似た、徐々に静かに盛り上がり、気がつけばとてつもない熱量を帯びた展開になっているストーリーテリングも見事だ。

 

 

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「特攻」という重過ぎる主題を、登場人物の様々な立場からの意味付けに、ひとつひとつ心を抉るような、それでいて心を癒すような、得も言えない感情世界の表現が見事だ。

 

特攻という極限の行動に向かう兵士、未だ選ばれず残る兵士、その家族・・・・各々の苦悩懊悩の心情が鮮やかかつリアルに描かれていて、それは作者の取材力と想像力と人間力によるものだろう。

 

これに近い感慨を受けたのは横山秀夫の「出口のない海」だ。地味ではあるが、そちらも素晴らしい作品だ。

  

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余談だが、映画版も後に観た。「ショーシャンクの空に」や「半落ち」と同じで、映画から入った人には良い先品だと思う。しかし、原作から入ってしまったら、色々疑問符がつくのは否めない。

 

しかしそれにしても、百田尚樹は本当は戦後世代ではなく、戦争を経験した世代なのではないかと疑わせるほどの迫真の筆致に、ただただ唸るのみだ。小説家としての力量は並大抵ではない。

 

登場人物たちの口を通して語られる時代認識や歴史観には、決して上辺だけではない、実際にその時代の空気を吸っていた者しか言えないようなものも多い。

 

そして色々と中傷されたり誤解されたりもする作者の名誉のために明言するが、これほどまで「偏らず」太平洋戦争の本質を「庶民の目線」から語ったものは希だと思う。

 

ともあれ、一筋縄ではいかない戦争という題材を取り上げながらも、根底に流れる「ひととひとのいのちの交流」に深く静かに心を揺さぶられて、瑞々しい感動を呼び起こさせる名作だ。

 

 

 

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