1993年のアメリカ映画「ALIVE」、邦題は「生きてこそ」というこの映画は、公開当時良くも悪くも「問題作」として話題に上がっていた。その時は結局観に行かなかったのだが、ずっと気になっていた映画の一つである。実話を元にしたドキュメンタリー小説「生存者」が原作の映画だ。
極限状態が浮き彫りにする人間の光と闇、そして崇高なる精神
1972年のウルグアイ空軍チャーター機がアンデス山脈に衝突した事故で、乗客はステラ・マリス・カレッジのラグビーチームのメンバーとその関係者だ。
有名な話ゆえにネタばれとはならないと思うので書くが、食糧が尽きた彼等は、最終的に先に逝った乗客の人肉を食することで飢えをしのぐ「究極の選択」の物語なのだ。
日本でも戦時中類似した事件=ひかりごけ事件があり、この事件を題材とした武田泰淳の「ひかりごけ」という小説を筆者は読んでいる。それはあくまで当事者への取材は無く現地の噂などをもとに書かれているので事実とは言えない
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重過ぎる主題を選ぶのもクリエイターにとっては究極の選択だ
そもかくこの映画の主題自体が半端ではない。これを選ぶこと自体も、クリエイターにとってまさに「究極の選択」である。この映画を制作したプロデューサーや監督に敬意を表したい。
さて、映画は事件発生の前から始まり、多くの死傷者を生んだ悲惨な事故と直後の状態を描く。
現状を把握して、希望を捨てずリーダーシップを取るもの、取り乱すもの、怪我人を労わるもの、自己中心になるもの・・・・という、人間ドラマが展開される。
筆者はこれをこれを英語喉による聴き取りで、字幕なしで観た。英語喉的に感銘した場面をひとつ。ある夫人はぐしゃぐしゃに潰れた機体で両足が挟まれていて激しく取り乱す。なんとか若いメンバーが助けようとするがなかなか上手くいかない。
彼女は泣きわめき、夜にもずっと泣き言恨み言をわめき続けた。それに対してある若者が耐えきれず "Shut up!" と彼女に叫ぶ。
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原語のままで観れば異邦人のセンシビリティが感じられる
ある朝彼女は既に逝去していた。若者たちが彼女に祈りを捧げる時に例の若者が泣きながらこう言った(のだと思う・・・そう聞こえた)
I told shut up.... what did I do? Now she is dead.... I’m so ashamed... Oh... God... Please... forgive me...
そう嘆く彼に別の若者が彼の腕にそっとふれつつ、声と言うよりも息だけを使って小さくこう囁く・・・・・
Take it easy...
本当にかすかに囁くようなセリフだが、字幕に頼らず見ればしっかり意味を持って聞こえてくるものだ。
ああ、こういう "Take it easy" もあるのか・・・・と思った。
"Take it easy" という言葉の持つイメージは、筆者にとって「気楽にいこうぜ」「気にすんな」だった。勿論それが主たるものだろうが、こんなにも人を優しく労わり、心中の辛さを察して言う "Take it easy" もあるのだと思い知ったひと幕だ。
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究極の選択を前に問われゆく人間の尊厳
さて物語はこれから核心に迫っていく。敬虔なクリスチャンである彼らが究極の選択に到る過程は、非常に重い場面になる。
テーマがテーマだけに賛否両論あって当然だが、未だ観てない人には、この映画は一見の価値はあると伝えておきたい。
「究極の決断」をするための話し合いは非常にシリアスだ。おそらくかなり忠実に再現されているのだと思える静かな、しかし底流で流れる迫力がある。
彼らは真剣に議論した。生き延びることを義務と捉えるなら、そのために必要な蛋白質を摂る方法はそれしかないのだということは紛れもない事実。一部の者を除いて、彼らは決断する。
それでも60日を過ぎると皆心身ともに激しく衰弱してくる。そんな時に一人が乾いたユーモアを込めて無表情に友人に言う言葉はぞくっとした。
Are you surprised how long people live like death?
ニュアンスとしては「人って死んだようになってさえ、こんなに生き続けるんだ、ちょっとびっくりだよな?」みたいなところか。
また比較的体力が残っている数名が麓に降りる挑戦を続けるが、どこまで行っても雪雪雪、雪の向こうに雪、雪を超えて雪。
一人が絶叫する。
There're nothing but snow!!
しかし不屈の・・・・
いや、これ以上は・・・書きたいが、制作した人たちへ敬意を払い、伏せておくことにする。
ともあれ、答えの出ないテーマを背負った映画だが、荘厳で格調高い、そして圧巻のヒューマンドラマであることは間違いない。
「生きてこそ」も無料で観られる↓