或る物書きの英語喉と小説まみれのジャズな日々

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スーツの歴史【後編】ジェントルマンの近代スーツが現代に至るまで

 

スーツの歴史【前編】ジェントルマンの意味に潜む近代スーツの誕生秘話 に続いて、誕生した近代スーツが現代に至る変遷を書こう。未読の方は前編から読んで頂きたい。

スーツ画像

http://www.brooksbrothers.co.jp/ourstory/history/

~職人と工業化、量産と一張羅、相対するものが切磋琢磨~

  

民衆から尊敬の目で見られていたジェントリーたち、つまり「ジェントルマン」の装いとしての、約100年前のスーツの誕生までを時間遡行した。当時はまだまだ既製服のスーツは存在しなかった。

 

上流階級である英国の貴族や指導者階級、ジェントリーたちがサヴィルロー通りに割拠するビスポークテーラー(仕立て職人の店)で服を注文していたが、その文化は今も息づいている。

 

そして次にイージーオーダーやパターンオーダーが生まれ、それから既製服につながる・・・かと思いきや、これは逆だ。既製服がイージーオーダーよりも先に生まれる。

 

実はこれに関しては諸説あるが、私の業界経験と知識から導き出した結論のストーリーを、あくまで参考としてここでは述べさせて頂く。

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19世紀後半、アメリカの衣料品製造販売業者「ブルックスブラザーズ」による工場でのスーツの量産が始まり、ゆったりとしたシルエットを麻袋(サック)に見立てサックスーツと呼ばれた。

 

何段階か改良が加えられ、20世紀に入ってすぐに売り出された「ナンバーワンモデル(Ⅰ型)」は空前のロングセラーとなった。

 

これは後にアメリカントラッドスーツの基本になる「ナチュラルショルダー・3ツ釦段返り・ノーダーツ・センターフックベント」という、英国スーツと対照的なディテールを持つデザインだ。

 

実はファッション性以前に、量産に向いていたデザインなのだ。

ひと口に言えば「英国文化が生んだ近代スタイルのスーツ」をアメリカらしい解釈で、より合理的なアプローチで生産し、ブルックスブラザーズは商業的に成功を収めた。

 

このデザインは、日本でもトラッド&アイビーファンに「イチガタ」の名で愛された。

 

当然のことながら、アメリカはもとより各先進国の衣料品製造業者たちはブルックス型アプローチで、工場の生産ラインを整えてスーツ製造に参入する。

 

良い面としては一部の特権階級のものだったスーツが、既製服として民衆が安価で手に入れて、装いを楽しむことができる時代になったことだ。

 

既製服としてのスーツは、ビジネスマンが身につける最適なファッションスタイルとして、世界を席巻していった。

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悪い面としては、仕立て職人の繊細な技やこだわりのない服がスタンダードとなってゆくことだ。

 

しかし生産技術の向上の中で、工業製品化したスーツも本来のビスポークの技術や持ち味を取り入れながらグレードを上げていった。

 

日本においても20世紀の中盤以降、第二次大戦後に訪れた平和を象徴する高度経済成長の波の中で、スーツを含めた既製服が飛躍的に普及し、多くのサラリーマンが制服のようにスーツを身につける時代が到来した。

 

そしてフルオーダー離れが始まることになる。

 

しかし英国やイタリア、日本のテーラーたちは、安価なスーツを大量に売りさばくいわゆるアパレル(既製服)メーカーたちに自分たちの仕事が奪われゆく状況を、指をくわえて傍観していたわけではない。

 

テーラーの顧客の中で依然としてフルオーダーを望む顧客は温存しつつも、サックスーツの登場以来どんどん向上した縫製工場の縫製能力を認めた上で対抗策を打ち出す。

 

テーラーが採寸して型紙を作成し、裁断した生地のパーツの縫製工程を工場に任せるというハイブリッドな手法で価格を下げることに成功した

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これがイージーオーダーの黎明だ。後には型紙作成・調整も自動裁断もCADとCAMというコンピューティングの結合によって合理化し、より効率的な生産が可能になってゆく。

 

そして今度はアパレルメーカーがイージーオーダーの発展を尻目に、既製服の生産ラインを使用して既製服のサイズオーダーを始める。

 

これがパターンオーダーの原型だ。つまり既製服で顧客のサイズの在庫がないものを別注生産するのだ。この時点ではあくまでサイズ別注に過ぎない。

 

しかし縫製工場にCAMという自動裁断システムが導入される中で、既製服での補正に相当するようないくつかのパーツの調整を、裁断時点であらかじめ反映させることができるようになり、その手法がパターンオーダーと呼ばれるようになる。

 

このようにして歴史が21世紀の門を開こうとする頃には、テーラーたちはフルオーダーとイージーオーダーを顧客によって使い分けて生きる術を見出し、アパレルメーカーは既製服の穴をパターンオーダーで埋める。

 

そうやってフルオーダーと既製服、イージーオーダー、パターンオーダーの棲み分けが進んでいったのだ。