或る物書きの英語喉と小説まみれのジャズな日々

  英語喉とジャズと小説をこよなく愛し、映画・アニメ・漫画・R&B・70年代ロック・Suchmosなどに眼がない或る物書きが綴る

「今夜、すべてのバーで」 中島らもの感性が結実した比類なき名作小説

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素晴らしい小説を読んで、落涙もしくは号泣した経験を持つ諸兄も多いことと思う。「今夜、すべてのバーで」もそんな小説のひとつだ。もし心が乾いているなら、潤せる一書と言えよう。

 

 

〜落涙はβエンドルフィンで精神浄化。泣きたい時に読む本〜

 

あの今は亡き奇才・中島らもの、吉川英治文学賞を取った、まさに隠れた名作といえる純文学作品だ。ユニークでひょうきんな彼の生前の「表」の顔からすれば、意外とシリアスであると思われかも知れない内容だ。 

 

しかし、彼の「裏」と言うよりむしろ「本当」の顔・・・アンダーグラウンドでエキセントリックな中島らも本来のキャラクターからすれば非常に彼らしいと私には思える。

 

この小説の前半はシニカルな乾いた雰囲気を漂わせながらも、知らず知らずの内に血の通った人間を描き、掘り下げてゆく紛れもない良質の文学作品だ。

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純文学とはいえ、持ち前のユーモラスさが功を奏して、内容の割には読みやすいので、誰であれとっつきやすいと思われる。

 

テーマはアルコール依存症だが、その重いテーマに読む者を興味深く引き込み、読ませ、根底にはシリアスなメッセージが流れ、終盤はとても劇的な展開になり、読後感が非常に清々しい作品だ。 

 

私はそれを通算四回読んだのだが、四回とも落涙し、とりわけ最初は恥ずかしながら号泣だった。無論二回目以降は号泣ではないにせよ、展開が分かっているのにも関わらず、の落涙だ。

それでも落涙してしまう・・・これは宮本輝の「錦繍」にも同じことが言える。

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また、感性が服を着て歩いているような中島らも自身のアルコール依存症の経験から、迫真の筆致、渾身の描写で描かれている部分は、いわゆる「人生の元手」が掛かっている。自叙伝的な作品なので、深いのも当然かも知れない。

 

彼には他にも多様な作品群があり、私も全てではないが結構読んだ。しかし、その中でも文学的純度の高さと人間の胸に迫る熱いものを、これでもかこれでもかと織り込んだこの作品が一番好きだ。

 

内容も満足いくものである上に、作品の品格を決定するエンディング部分・・・・・・最後の場面の鮮やかな洒落た終わり方には、にやりとしながら唸ってしまう。

 

人間のドロドロしたものを題材にしつつも透明感のある、不思議な小説だ。未読の諸兄には一読をお勧めする。