或る物書きの英語喉と小説まみれのジャズな日々

  英語喉とジャズと小説をこよなく愛し、映画・アニメ・漫画・R&B・70年代ロック・Suchmosなどに眼がない或る物書きが綴る

連載ブログ小説『宇江部雷太 』第2話 寿命の意味 〜副業ライター物語〜

 

この連載小説は、筆者MASAの実体験をベースにして、副業ライターとはどういうものかを描いていく物語だ。 これを書こうと思い立ったのは、副業ライター志望の人たちに説教めいた指南書ではなく、小説として読みやすい形で発信しようと考えたからである。

 

タイトル画像

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宇江部雷太 〜副業ライター物語〜

前回のあらすじ

広告代理店の営業マンである宇江部雷太は、上司のヘツラー総統に嫌味を言われたのをキッカケに、外に飛び込み営業に出て行った。初めて入った自転車店の店主があまりに商売っ気がないので不審に思い、聞けばWebライターをやっていてそれが面白くて仕方がないとか・・・。

前回の最終パラグラフ

おれ自身、書くことは嫌いではない。雑記ブログも書いているぐらいだ。

でもそれは自分の書きたいことだけ書いているので、人にこれを書けと言われて書くのとは随分違うと思う。

 

でも、店主はほんとうにその言葉を愉快そうに言っていた。おれは突っ込んで訊きたくなった。

「ひとつ教えてください。なんでWebライターがそんなに面白いんです?」
  

アゴ髭の若い店主は、意外にも真摯な眼差しをおれに向けて、語り始めた。

「いい質問です。これはね、ボクもやって初めてわかったことです」

 

おれは襟を正す気持ちで、店主を見つめ返し、彼の言葉に耳を傾ける。

 

「依頼された記事を書くってことはね・・・・」

 

店主の眼の奥に青白い炎が一瞬煌めいた気がして、おれは生唾をゴクリと飲み込んで次の言葉を待った。

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   第2話 寿命の意味

 

 

「それはね・・・ ひとの寿命を延ばすことなんすわ」

 

言い終わって店主は、何かに想いを馳せるように中空を見つめた。

 

「じゅ、寿命ですか?寿命を・・・延ばすんですか?」

おれは彼の言ってる意味がにわかに理解できず、思わず聞き直した。

「頼まれた記事を書くってことは、寿命を延ばすことですって?」

 

「ええ、そんなんすよ」

そう言いながら店主はおれに視線を戻した。

「雷太さんは、ひとの寿命って何だと思います?」

 

わけがわからないまま質問されたおれは、困惑しながら答えた。

「そりゃ・・・どれだけ長く生きられるか・・・じゃないんでしょうか?」

 

おれの表情を興味深げに眺めていた店主は、アゴに手をやって髭を撫でながら言った。

「それは一般的にはそうです。せやけどボクは、雷太さん自身はどう思うかをお尋ねしてるんすわ」

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そう言われておれは考えてみた。

寿命の寿は「しあわせ」の意味だよな。命のしあわせ。そうだよな、必ずしも長く生きることがしあわせとは限らん。

 

「う・・・ん、難しいけど、長く生きることやのうて、なんちゅうか楽しかったり喜ばしかったり、感動したり・・・そういう生きてるっちゅう実感・・・うまいこと言えませんけど、心が踊るようなことが、寿命の意味かも知れませんね」

 

それを聞いた店主は破顔し小さく叫んだ。

「That's it!」

「え?ザツい?雑いですか、わたしの答え?」

店主は笑いながら大きくかぶりを振った。

「いえいえ、雑くありません!すんません、そうじゃなくて・・・『それだっ!』って思わず英語でゆうてしもたんすわ」

「え、英語で?」

「ええ、アメリカ人の友達がいてましてね。ブライアンゆうてちょっとイカれた奴なんすけどいいやつでね。そいつはラスベガスにいてるんですけど、LINEでよう通話してるんすわ。ほんで、奴がしょっちゅうそれを言いよるんすわ・・・That's it! ってね。せやからボクもつい口癖になってしもて」

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ほぉ・・・アメリカ人とLINEで通話か。そりゃいいな。文化の違う人たちと手軽に話せて、英語もおカネ掛けやくても磨かれそうだしな。

 

「でもおかげで、ネイティブのお客さんが突然来ても、へっちゃらになりました」

うん、やっぱりな。

「で、それはともかく・・・依頼された記事を書くっちゅうことが寿命を延ばすって意味ですが・・・」

「そうそう、それを、はよ教えくださいよ!」

 

店主は丁寧に言葉を選ぶように語り始める。

「雷太さん。記事のトピックってほんとに色々あって、ライターって自分の得意分野だけ書いてるわけにはいかないんすわ。だから調べて書くわけなんすけどね・・・それって、まぁ言うたら、人の何倍もいろんな体験ができるみたいなもんなんですわ」

 

「はぁ・・・なる・・・ほど。つまり、読書と同じですね?ほら、読書って、言うたら別の人生を追体験するみたいなところがあるじゃないですか?」

 

それを聞いて店主は微笑んだ。笑い皺が刻まれ、人懐っこさが強調される。誰かに似ているな・・・?そうそう、ジョージ・ハリスンや。ジョージがアゴ髭だけにしたらこんな感じだ、ふふふ。

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「何を人の顔しげしげと眺めてはるんですか?まぁええですわ。あのね、読書と確かに通じるものはありますねん。おっしゃる通り、本を読むってことは、ぎょうさんの知らない人生を追体験できるってことは言えてますよね」

「ええ、わたしは本を読むのが好きで、そう思うんです、ほんまに」

「同感です。ボクも本を読むのが好きですから。せやけどね・・・」

「違うんですか?」

「違うと言うか・・・・もっともっと深いんですわ」

 

ほぉ・・・読書よりも、もっと深い?

 

「ええ。何が違うかゆうたらね、読書で追体験できるけれども、それは受け身ですよね?」

「受け身・・・ま、たしかに、言われてみれば受け身やね」

 

「ところがね、記事を書くのは受け身ではできひんのですわ。能動的に自分でその対象に向き合っていかな書かれへんのです。ま、言うてもライターの中には対象に向き合うこともせんと、適当に調べたものを適当に文章にして記事の体裁を整えるだけの仕事をするひともいてはります。でも、そんな記事は読むひとの心に響かへんし、刺さらへんのですわ」

「うん・・・それは何となくわかります。薄っぺらい記事って、ちょくちょくありますもんね。そうかぁ、あれは向き合って書いてないんからなんやな」

「そうです。そんな記事書いてたら、だんだん仕事が来んようになります。そない甘いもんやおませんねん」

「そりゃ、文章でお金もらうっちゅうからにはプロフェッショナルやからね。そう甘かないのはわかります」

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ジョージ・ハリスン似の店主は、おれの眼をちゃんと見ながら聞いている。真摯な若者だと改めて思った。

 

「せやからね、対象と向き合って記事を書いてると、それまで知らんかった世界の面白さとか奥深さがね、ほんの少し垣間見れるんすわ。で、書くごとに、自分のキャパが少ぉしずつ増えていくみたいな・・・もちろん、じっくり学ぶのと違って体に染み付くほどには無理にしてもね・・・なんちゅうか、その間はどっぷりと浸かるので・・・時が経てば忘れる部分も多いんすけど、それでも残る『芯』とか『核』みたいなもんがあるんすわ」

 

へぇ・・・そうか、その人の向き合い方次第では、結構奥が深いものかも知れないな・・・物を書くってことは。

 

店主はふと思い出したように、店の奥の事務デスクの方に向かって歩き始めた。おれを振り返り、手招きした。

 

おれは彼の後についてデスクに近づいた。

 

デスクにはノートパソコンが開かれたまま置いてあった。

店主が中腰になってキーボードを叩きながら言った。

「たとえばね、グルメ関係の記事の発注を受けるとしますやろ?ボク自身はあまりグルメやないから色々調べるんですわ。それもね、まとめサイトなんかより、個人のブログが結構マニアックで参考になるんすわ。こないだ見つけたこれなんか、おっもしろいですよ」

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店主がおれの方を振り向き、画面を指差して言う。

「このブログを書いている人はね、ケッサクですよ・・・人間ドックの再検査が決まったのでダイエットは続行なのだとか言いながら、この食レポ・・・はっはははは」

店主の左側に立ってたおれも、中腰になって画面を覗き込んだ。

 

「え?これがダイエット中の食事?」

 

おれは思わず笑ってしまった。がっつり揚げ物でボリュームある定食ではないか。何がダイエット?人間ドックの再検査?ははははは。

 

「面白いでしょ?個人のブログってね、まぁガチでマニアックなもんが多いから、記事書くときにほんま参考になるんすわ。このクッキング父ちゃんみたいにね」

おれは画面の上部のブログタイトルに目をやった。

 

「なになに・・・クッキング父ちゃんの食レポブログか・・・」

 

「この記事で紹介してる定食は実はまだマシでね、再検査気にしてるのかな、ぁはっははは。いっつも基本もっとパワフルで過剰カロリーのもんばっか食レポしてはってね、こないだも、ほんまにダイエットしてるんですか、嘘でしょってコメント書いたら、1キロ減です〜って返されました。嘘つけ〜って思うんすけど面白いんすわ」

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なるほど、確かに個人ブログってのは面白いものがたくさんあるのは同感だ。

 

「店主さん、わたしもこのあいだね、面白いブログを見つけましたよ」

おれは店主の顔を見てニヤっと微笑んだ。

「へぇ・・・雷太さんが面白いっていうのはどんなブログです?」

「ちょっといいですか?」

おれはそう断って、キーボードを叩いた。

検索窓にある言葉を入力すると画面が変わり、おれはある記事を選んでクリックした。

 

出て来た画面に目をやった店主は訝しげな表情で、タッチパッドに触れて画面をスクロールしながらブログを読んでいた。

 

しかし徐々に目が笑って来た。腹部が小刻みに波打って来ている。

やがて、笑いを押し殺しながら言った。

 

「くっくくくく・・・なんじゃこれは?・・・ふっ、ふははは、お、オモロいやないすかこれ!」 

 

第3話に続く