或る物書きの英語喉と小説まみれのジャズな日々

  英語喉とジャズと小説をこよなく愛し、映画・アニメ・漫画・R&B・70年代ロック・Suchmosなどに眼がない或る物書きが綴る

昭和の魅惑スタアを凄まじき筆力で描いた『RURIKO』林真理子

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或る物書きのジャズな本棚: My Favorite Novels ネタバレなき醍醐味紹介 (或る物書きのジャズな文庫)

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物語の冒頭、満州新京の「満映」スタジオにて理事長甘粕正彦が、官僚浅井源二郎に真剣に何事か頼んでいる。それは浅井の娘である恐ろしいほど美しい4歳の信子を、将来必ず満映の女優にして欲しいと・・・女優浅丘ルリ子の胎動の瞬間だった。

 

最近では長編小説『西郷どん』が大河ドラマ化して、実力派作家としての風格が漂って来た林真理子だが、本来私の彼女の小説に対する印象は「面白いけど後味が悪い」だった。ただし、後味が悪くても、また読みたくなる粘っこい魅力があるということは否めない。

 

その辺りは彼女の出世作である、直木賞を取った『最終便に間に合えば』などでも同様の楽しみかたができる。人間関係で悩む人は、中途半端なカウンセリングを受けるよりも『最終便に間に合えば』を読む方が、人間の弱さを知ることによって強くなれる気がする。

 

さて、後味が悪い彼女の小説だが、この2008年の作品『RURIKO』はまったく違った。作風そのものも、なにやら時間空間のスケールが大きくなったし、読後感もある種爽やかであった。

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あくまでもフィクション、しかし時代の空気感がリアル


この小説はあくまで、フィクションというスタンスをとっているが、それでも昭和の大女優・浅丘ルリ子の半生を資料、そして浅丘ルリ子本人への入念な取材(旅行にも同行するほど)を土台として、林真理子は銀幕裏絵巻を創り上げた。

 

作家魂がそうさせるのか、リアリティは生半可ではない。なにせ、浅丘ルリ子のことをよく知る友人が『RURIKO』を読んで、慌ててルリ子本人に「なにもそこまで取材で明かさなくても・・・」などと電話がかかってきた。

 

ルリ子本人も慌てて初めてちゃんと読んでみて、林真理子に「わたしそんなことまで言ってないでしょ!」とクレームがついたぐらい図星の描写であったというエピソードがある。・・・おそるべし林真理子のイマジネーションである。

 

ともあれ、彼女はこの作品が、ひとつのマイルストーンになっているような気がする。

 

特に取材で得た歴史的事実の部分部分の裏付けを元に、作家としての感性と想像力を全開にして全体のストーリーとリアルな細部を創造してしまう力量が開花し、後の歴史小説への取り組みに生かされているのだと思う。

 

さて、冒頭から「甘粕正彦」などという、物凄く濃い人物が出てくるのに驚かされる。
良くも悪くも歴史に名を遺す怪人物である甘粕は、その信子が持つ蠱惑的でもある煌めきに魅せられたのだろうか。

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物語のキーマンのひとりは歴史上の怪人物「甘粕正彦」


物語のキーマンのひとりである甘粕正彦について、少々注釈を加えておこう。いわくやエピソードの多い人物で、映画『ラストエンペラー』や漫画『龍-RON-』にも登場するあの甘粕正彦だ。

 

甘粕は「満映」、正しくは満州映画協会の二代目理事長を務めた。満映の映画製作実績が上がらないことに業を煮やした満州国国務院が、甘粕正彦を二代目理事長に抜擢して満映の改革に乗り出したとされている。

 

関東大震災の折りに、日本を震撼させた「甘粕事件」別名「大杉事件」を起こし、服役した後に甘粕は渡仏した。

 

さらに満州へ渡って、満州国民生部警務司長などを務め、協和会幹部のかたわら謀略機関の黒幕として特務工作をおこなって満州国建設に一役買った甘粕を、満映理事長に起用したのは政治家武藤富男と岸信介とされる。

 

岸信介は後の総理大臣であり「昭和の妖怪」と呼ばれた傑物にして、現内閣総理大臣(2019年8月現在)安倍晋三の祖父でもある。

 

武藤と岸の本心は、彼らから見て甘粕は大きな功績の割には、処遇が報われていない事への配慮もあったようだ。

 

満映理事長を最後の仕事とした彼は、終戦の報を聞いて服毒自殺をしている。その胸中に去来したものは何かということは、誰しも軽々に推し量ることはできない。

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銀幕デビュー当初から自由人だったルリ子


戦後に15歳で3000人のオーディションの中から、ルリ子は主役に選ばれ、日活の全盛期における看板女優になる。

 

北原三枝、石原裕次郎や北原三枝、小林旭や美空ひばり、そして石坂浩二など、ルリ子に近いスターたちが実名でどんどん登場する。

 

人気絶頂の輝きまくる石原裕次郎、ルリ子と一度は恋仲だった小林旭、結婚相手になり、いずれ別れることになる博覧強記な石坂浩二をはじめとして、当時の銀幕スタアの日常の姿が活写されていて、どんどん引き込まれてゆく。

 

ルリ子と仲の良かった美空ひばりと裏社会との関係も言及される。林真理子にタブーはないのか、それとも作家魂が優先されるのか。おそらく後者なのだろう。

 

ともあれ、実名のそれぞれの男女は、林真理子お得意の性格描写によって、もはやフィクションであることを忘れ去ってしまう。

 

これから読む人のために、具体的な言及は避けるが、ルリ子はとてもさっぱりした性格で、人を羨まず妬まず堂々と、そして自分は幸せだと思って生きている。そんな楽観主義こそが可憐な佇まいにも関わらず決してか弱くはなく、むしろ強い生き方に向かわせたのだろう。

 

様々なタイプの登場人物がいるので、読む人は自己投影や感情移入するキャラクターには事欠かないかも知れない。そういう楽しみかたも与えてくれる小説だ。